『言いたいことも言えないこんな世の中は〜POISON〜』な日々

平凡な29歳女子に日々起こる、ちょっとした出来事に対して言わせてほしい

もう鍵なんて貸さない〜マジックショーに行った叔父の話〜

 

私がまだ小学生の頃の話しである。

 

私には、頑固で嫌味ったらしい性格の叔父がいる。

ある日、そんな叔父が、

某有名マジシャンのショーのチケットが手に入ったと自慢してきた。

 

テレビにも出るような有名マジシャンだった為、

私は「行きたい」とチケットを譲ってもらえないか叔父に頼んだ。

しかし、叔父は「だめ」の一点張り。

「俺の日頃の行いがいいからだよ」と言い残し、

ショーへ出かけていった。

神様の『日頃の行い』のジャッジの甘さを疑いつつも、

どんなマジックを見たのかとても興味があったため、

叔父の帰りを待つことにした。

 

しばらくすると、ショーが終わった叔父が帰宅した。

 

子供ながらに、叔父が凹んだ顔をしている様に見えた。

「どうしたの?楽しかった?」と聞くと、

 

「鍵…曲げられた…」と力なく答えた。

 

叔父の家の鍵を見てみると、曲がっているのである。

家族は腹を抱えて笑った。

 

叔父に事情を聞くと、どうやら、

会場の中でマジシャン本人に抜擢され、ステージにあげられた叔父は、

鍵を貸してくれと言われた。

大抜擢に浮かれている叔父は、言われるがまま自宅の鍵を差し出したらしい。

 

すると、マジシャンは得体も知れないパワーを送り、

鍵を曲げてみせたのだ。

叔父は唖然。

会場は、大歓声に包まれた。

マジシャンは得意げに、曲がった鍵を観客に見せて回った後、

「お戻りください」という言葉と共に、鍵を叔父へ返却。

 

叔父は何も言えず、曲げられた鍵を手に、素直に席へ戻った。

席へ戻った叔父は、スターのごとく周りの観客からもてはやされつつも

鍵を曲げられた現実を受け入れ始め、

「元通りにしてくれなきゃ困る」と思ったらしい。遅い。

 

しかし、ステージでは別の演目が始まっており、

「直してください!」などど、割って入る訳にはいかない。

仕方なく、終了するまで待った叔父であったが、

終演後、マジシャンに会える筈もなく、スタッフにお願いしても、

変質者ばりの扱いを受けるだけだった。

そして、成すすべのなくなった叔父は、トボトボと帰宅してきたのだった。

鍵は曲げられるは、家族に散々笑われバカにされるは、

災難な叔父である。

 

当時の私は、あんなに楽しみにして観にいたのに、

かわいそうだなと思ったが、

神様の『日頃の行い』のジャッジはやはり甘くはないのだと

子供ながらに学ぶものがあったと記憶している。

 

鍵の行方だが、

力ずくで直すこともできたらしいが、

記念として今も曲がったまま保管しているらしい。

 

そして、叔父の性格は変わらない。

が、私は大好きだ。

 

 

チッさん