もう鍵なんて貸さない〜マジックショーに行った叔父の話〜
私がまだ小学生の頃の話しである。
私には、頑固で嫌味ったらしい性格の叔父がいる。
ある日、そんな叔父が、
某有名マジシャンのショーのチケットが手に入ったと自慢してきた。
テレビにも出るような有名マジシャンだった為、
私は「行きたい」とチケットを譲ってもらえないか叔父に頼んだ。
しかし、叔父は「だめ」の一点張り。
「俺の日頃の行いがいいからだよ」と言い残し、
ショーへ出かけていった。
神様の『日頃の行い』のジャッジの甘さを疑いつつも、
どんなマジックを見たのかとても興味があったため、
叔父の帰りを待つことにした。
しばらくすると、ショーが終わった叔父が帰宅した。
子供ながらに、叔父が凹んだ顔をしている様に見えた。
「どうしたの?楽しかった?」と聞くと、
「鍵…曲げられた…」と力なく答えた。
叔父の家の鍵を見てみると、曲がっているのである。
家族は腹を抱えて笑った。
叔父に事情を聞くと、どうやら、
会場の中でマジシャン本人に抜擢され、ステージにあげられた叔父は、
鍵を貸してくれと言われた。
大抜擢に浮かれている叔父は、言われるがまま自宅の鍵を差し出したらしい。
すると、マジシャンは得体も知れないパワーを送り、
鍵を曲げてみせたのだ。
叔父は唖然。
会場は、大歓声に包まれた。
マジシャンは得意げに、曲がった鍵を観客に見せて回った後、
「お戻りください」という言葉と共に、鍵を叔父へ返却。
叔父は何も言えず、曲げられた鍵を手に、素直に席へ戻った。
席へ戻った叔父は、スターのごとく周りの観客からもてはやされつつも
鍵を曲げられた現実を受け入れ始め、
「元通りにしてくれなきゃ困る」と思ったらしい。遅い。
しかし、ステージでは別の演目が始まっており、
「直してください!」などど、割って入る訳にはいかない。
仕方なく、終了するまで待った叔父であったが、
終演後、マジシャンに会える筈もなく、スタッフにお願いしても、
変質者ばりの扱いを受けるだけだった。
そして、成すすべのなくなった叔父は、トボトボと帰宅してきたのだった。
鍵は曲げられるは、家族に散々笑われバカにされるは、
災難な叔父である。
当時の私は、あんなに楽しみにして観にいたのに、
かわいそうだなと思ったが、
神様の『日頃の行い』のジャッジはやはり甘くはないのだと
子供ながらに学ぶものがあったと記憶している。
…
鍵の行方だが、
力ずくで直すこともできたらしいが、
記念として今も曲がったまま保管しているらしい。
そして、叔父の性格は変わらない。
が、私は大好きだ。
チッさん